1978年公開のアメリカ映画。
マイケル・チミノ監督。ロバート・デ・ニーロ主演。
(以下ネタバレを含みます)
- ワンカットを多用する驚きの撮影手法
- デ・ニーロとメリル・ストリープがすごい
- 反発も多かったロシアンルーレットのシーン
- セリフを用いず訴えかける
- 悲痛のゴット・オブ・ブレス
- その後監督は…
- 「ディアハンター」評価
ワンカットを多用する驚きの撮影手法
すごいカメラワーク。
この映画では全体的に、ロングショット、遠くからの撮影が多く、しかもワンカット固定。
だから前半の結婚式にしても、まるで、どっかの結婚式を見ているようで、とても映画とは思えないくらい臨場感が出ている。
顔のアップのシーンや、いわゆる映画的な手法が少なく、独特のカメラワークとカット割りでリアリティが滲み出ている。
だから特別重要なセリフはなく、あくまで描写力のみで伝えようとしているかのよう。
すごい監督だと思った。どことなく黒澤明監督を彷彿させる。
さらに、中盤の戦争のシーンも、ものすごいリアリティがある。
ただ残虐性を描くのでも、ベトナム戦争のあらましを描くのでもなく、このディアハンターという映画に必要なカットだけを挟んでいるという感じ。
だからなおのこと、緊迫感がある。
デ・ニーロとメリル・ストリープがすごい
それから、デニーロとメリル・ストリープの演技力がすごい。
特に終盤の、葬式の後のメリルストリープの表情。何十通りにもとれそうな程の奥深さ。
それを抜きにしても、デニーロも然り、全体的に今、どういうことを考えているんだろうということを色々考えられる映画だと思った。演者の微妙な表情から、何かを見出していくような。
反発も多かったロシアンルーレットのシーン
この映画の一番話題になったシーン、ロシアンルーレットのシーンだけど、あのあたりでやっぱり、東洋人からの反発が多いという。
東洋人を、まるで分けが分からない非道な人間として描いている、という。
言われてみればそういう感じもするけど、少なくとも見てる時は、個人的には差別的な意図は感じられなかった。それよりも、自国アメリカに対して、ベトナム戦争の意味を問う、といった作りだったと感じた。
セリフを用いず訴えかける
だからこの映画では、決定的なセリフがあまり出てこないんだと思う。
戦争なんてしたくない、くだらない、やって何になる、または、国のために命をはろう、この戦争は有意義だ、どちらのセリフも出てこない。
セリフには出てこないけど、映像からは出ている。あの登場人物達からは。
悲痛のゴット・オブ・ブレス
最後の「ゴット・オブ・ブレス」の歌にしても、讃えているようには見えないだろう。
悲痛なものに聞こえるはず。あのラストシーンでも、この監督は決定的なセリフは用いず、あの歌を全員で歌うという手法で完結した。
鹿狩りのシーンにしても、あらゆることが、様々なものを示唆しているようで、それでいて難解でもなく、アート映画でもなく、観るものに確実に何かを残す、強烈な映画だった。
その後監督は…
本作の監督マイケル・チミノは、このあと『天国の門』という作品で一つの会社を潰すほどの赤字を出してしまい、それもあってか、その後あまり良作に恵まれなかった。
これだけの監督なのに。
やはり才能とは、その才能だけでなんとかなるものではない。
「ディアハンター」評価
★★★★★★★★☆☆