2017年製作の日本映画。
監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの「シネマプロジェクト」第7弾作品。
製作費は300万円。
2017年11月、ミニシアター2館で先行公開後、国内及び海外の映画賞を数々受賞し、2018年6月に日本国内で凱旋上映。
現在は100館以上で上映されており、2館→100館というシンデレラストーリーを進行中の話題の映画。
監督は上田慎一郎。
(以下ネタバレを含みます)
感想
冒頭から感じられる違和感
とにかく前知識なしで見たほうがいいと言われるこの映画。
「自主制作、ゾンビもの」という2点だけの情報で劇場へ観に行った。
「新進気鋭のクリエイターらしい斬新な発想と、それを形にする頑張り」
が感じられる映像が冒頭から広がる。
「なるほど、ゾンビものを撮っているというテイの一発撮りか、へえ、おもしろいなあ」とぼんやり見る。
ただ、どこかしこに違和感を感じる。
「ん?」と感じられるこの違和感は、自主制作ならではの詰めの甘さなのかな、という印象を与えるも、それが5分10と分続くので、もしかしたらこれは別の狙いがあるのかもと感じてくる。
カメラは誰目線だ?という違和感
どこかに感じるこの違和感は、演者たちの妙な間合いや演技にもあるが、なによりも感じるのは、このカメラは誰目線なんだ?ということ。
中盤で、監督役の濱津隆之がカメラ目線で「カメラを止めるな!」と叫ぶところで、その違和感は決定的なものに変わる。
やっぱりこれは「ゾンビものを撮っているというテイの一発撮り」映画、ではない。
この違和感がまた、飽きさせない重要なポイントになっていたと思う。
次の瞬間なんらかのネタバレ、大オチが来るのではないかと感じるから、目が離せない。
そしてなにより、このワンカットゾンビ映画のクオリティーも結構高いから、十分見れてしまう。ここがチープだと伏線感が強すぎて、全体がいまいちになっていたと思う。このクオリティーが高かったのも、重要な成功要素だった。
ゆっくりと始まる回収
「37分間のワンカットゾンビ映画」が終わると、
“一ヶ月前”
といったテロップが表示される。
この映画ができるまでのストーリーが始まるわけだが、そこから、観客達の脳内に散らばった違和感という名のパズルが一つずつ繋がっていく。
この快感に人は、どんどん吸い寄せられる。
見事な足かせ
「生放送で一発撮りのドラマを作らないといけない仕事」
という設定が秀逸だと思った。
この足かせが、最後の大回収における大爆笑を生む。
また、キャストに当初は違う人たちが配置されている前段階もいい。
観客はそこで、「あれ?この役この人じゃないよな?」と感じる。
当日事故の影響で幾人からのキャストが来れなくなって、通常ならリスケになるが、「生放送で一発撮りのドラマを作らないといけない仕事」のため、そこで急遽代役を立てなきゃいけなくなる。
そこで奥さんや娘なども仕事に加わる。そしてまた一つ観るものの脳内パズルがはめ込まれる。
この映画プロットが成功している重要なファクターが、この「生放送で一発撮りのドラマを作らないといけない仕事」という足かせなのだ。
爆発する冒頭シーン
そして本番が始まると、この映画で一番初めに観たシーン流れる。
観客はこれをもう一度観ることになるわけだが、これが爆笑のファンファーレ。
ここで観客は「そういうこと(映画)か!」と全ての違和感が笑いの感情と共に雪だるま式に最後まで倍増していく。
監督の「ここから行きます」という強い意思表示を感じた。
実際劇場でも、ここから観客の爆笑が始まった。
監督役の濱津隆之さんが、生意気な女優にブチ切れのダメ出し、考え過ぎの俳優にビンタ。
人が激怒すればするほど笑いが生まれるメカニズムを最も昇華させたのが松本人志さんだが、この映画の監督、上田さんは、尊敬する4人の一人に、松本人志の名前を挙げていた。
止まらない大回収・大爆笑のすごさ
監督が仕掛けた笑いの伏線の全回収。
ここから終わりまで、劇場で笑いが止まることはなかった。
畳み掛けるようにこの映画の本領が発揮される。
見事なのは、キャスト全員にそのポジションを担わせているところ。
ありがちな、役者の妙な事務所のしがらみもないから、全員においしいところがきっちり用意されていて、キャスト陣もそれに完璧に応えられているから、これほどまでにチームプレーを感じた映画も少ない。
また、笑いだけでなく、最後の人間ピラミッドのシーンでは、生意気な俳優も自ら参加したりするようなほっこりシーンも抜け目ない。
くだらない笑い、怒りの笑い、必死な大人の笑い、下ネタ、さらに団結力や成長要素も入っていて、エンターテイメントのあらゆる良さが入っているように思えた。
大回収は最後まで一度もダレることもなく続き、エンディングを迎えた。
上田慎一郎監督が尊敬する4人の日本人
宇多丸さんのラジオ出演時に、上田慎一郎監督が尊敬する人物として挙げていたのが以下4人。
- 松本人志
- 三谷幸喜
- 吉田戦車
- 宇多丸
ワンカット感、キャスト全員のドタバタ感などの三谷幸喜節は随所に感じられる。
ブチギレ笑いは松本人志さんだろうし、この映画の不条理な笑いは吉田戦車からだろう。
また、宇多丸さんのラジオを昔から聴いていたというだけあって、映画の中に面倒臭さや変なところに固執する妙なこだわりもなく、とにかく観ている人を一番に考えた作品になっていた。
日本映画業界の「遅れてる感」
自主制作映画でヒットするものは
『ブレアウィッチ・プロジェクト』
『パラノーマル・アクティビティ』
などのホラーものが多く、その理由は手持ちカメラだけで映画を成立させれてしまうからに他ならないが、
- 日本
- 自主制作出身
- 伏線回収系
といえば、内田けんじ監督の『運命じゃない人』が挙げられる。
この映画も見事であったが、『カメラを止めるな!』のすごいのは、老若男女だけでなく、外国人が観ても楽しめる内容のところだ。
実際この映画は海外でこれだけの賞を受賞している。
- イタリア「ウディネ・ファーイースト映画祭 2018」シルバーマルベリー(観客賞2位)
- ブラジル「ファンタスポア2018」インターナショナルコンペ部門・最優秀作品賞
- アメリカ「第17回ニューヨーク・アジアン映画祭(英語版)」観客賞2位
- 韓国「第22回富川国際ファンタスティック映画祭」ヨーロッパ審査員特別賞(EFFFF(英語版) Asian Award)
- カナダ「第22回ファンタジア国際映画祭」審査員特別賞(SPECIAL MENTION)
ちなみに国内だと以下。
- 日本「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」ゆうばりファンタランド大賞(観客賞)
- 日本「ゆうばり叛逆映画祭2018」特殊効果賞、優秀作品賞
いかに日本の映画業界が閉鎖的で、遅れているかがわかるだろう。
国内の大きな映画賞を獲ることは、今の閉鎖的な日本では難しいだろうが、少なくとも、日本のもっと多くの映画館で『カメラを止めるな!』を流さないといけないと思う。
「カメラを止めるな!」評価
★★★★★★★★★★ 神