映画「SUNNY」感想 韓国原作アラフォー殺しの神映画は俺たちの「三丁目の夕日」だ

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2018年8月31日に全国東宝系にて公開された日本映画。大根仁監督。

2011年公開の韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』のリメイク。オリジナルは1980年代後半だった舞台を1990年代後半に置き、コギャルなど日本版としてのアレンジが加えられている。

回想は似てる無名か似てない有名か 

主人公たちの年齢を40代中盤とすれば、約30年ほどの時を行ったり来たりする作品のわけだけど、そうなると難しいのは当然キャスティングになる。

よく回想シーンで、本人がめちゃくちゃ若作りして制服来て出ててさすがに無理あるだろ、みたいなこともあれば、本作のようにキャストを完全に分ける場合においても突っ込みは当然あるだろう。

広瀬すずが30年後篠原涼子の顔になるだろうかとか。

でもこの作品の凄いところは、それを見る人に暗黙の了承をさせてしまえているところにある。

回想箇所にあたる、女子高生時代の演者が全員無名の役者だったらどうか。顔つきはどことなく当人らと似てるけど、全くの無名。

それよりは、広瀬すずや山本舞香のほうが観てておもしろくない?という暗黙の了承を見事にさせている。

山本舞香→板谷由夏のラインはかなりうまいと思った。なんとなくそう見える。

広瀬すず→篠原涼子は、ダブル主演ということで了解できるし。

MVPは文句なしでともさかりえ

本作の絶妙なキャスティングにおいて一番特筆すべきは、ともさかりえであることは間違いない。

まさに90年代に輝いた人であるし、なにしろ『金田一少年の事件簿』の元祖美雪。

この映画を観てもっとも楽しめる世代にとっては、ともさかりえという存在自体が90年代を象徴するアイコンなので、そのともさかりえを起用するあたりが、恐ろしきセンスあるキャスティングと思えた。

そしてそのキャスティングの妙だけでなく、本作のともさかりえがうまい。めちゃくちゃうまい。

この落ちっぷりといい、情緒不安定さといい、ガリガリのアル中ババア感が素晴らしい。

スナックで、篠原涼子とのシーンはほんの数分だったけど、強烈な印象を残した。

それだけに、葬儀での登場に強いインパクトを与えることに成功してる。つまりこのシーンへのフリはスナックのわずかなシーンだけなのに、そこが完璧だったため、見事な決まり方をしてる。

池田エライザを替えないという見事さ

観る者全てを唸らせたのは、池田エライザの大人版。

奈々が登場するであろうことは誰もが予想していたと思うが、いったいどの女優が出てくるのかと、この顔立ちの40代は誰だろうと想像した人も多いはず。

そこでまさかの本人という。

そもそも池田エライザの30年後は、あんな感じだと思う。というより、本人を老けさせるほうが本来は精度は高いはず。広瀬すずが篠原涼子になるよりは現実味はあるのだ。

ただ、それでも篠原涼子らと並ばせてしまうとさすがにきつい。だからラストシーンも、それぞれ別カットで撮ったんだと思う。こういう細かいところもうまいと思った。

小池栄子と渡辺直美という発明

小池栄子は、天才がたまたま巨乳だっただけの女なので、抜群の働き。世界を笑わせるエンターテイナー、渡辺直美のコメディータッチに全く引けを取らない。

この二人の掛け合いが見れるだけでも、かなり贅沢。

本作は、原作ありきのわかりやすいエンターテインメント作品であるものの、こういったキャスティングのおもしろさにおいて、とても革新的だと思った。

現実味ある回想録より、華やかな回想録にして、そっち側だけでも単体で楽しめるクオリティのほうがいいでしょ、という。

その振り切り方がとても気持ちよくて、裏切られることなく、心から楽しめる。

田舎者広瀬すずの安定感

しかし広瀬すずの田舎者転校生の安定感はエグすぎる。

彼女を世間に知らしめた『海街diary』がそんな設定だったから、お手のものだ。

また、奈々の家に行って「ダンスやろうよ!」と言われると『チアダン』を思い出してしまう。

本作における広瀬すずの演技が素晴らしかったのは、「奈々より全然かわいいじゃねーか」「ダサい服装させてもかわいいじゃねーか」「なにさせてもかわいいじゃねーか」という目がある中で、きっちりそこにハマる演技を見せていたところ。

お好み焼き弁当だったときの目の動かし方や、少しずつ芹香たちと仲間になっていく緩め方とか。

小野花梨とかいう天才女優

それから忘れてはいけないのは鰤谷。

天才だと思った。

決して難しい役どころではないものの、鰤谷を120%演じきっていた。

薬というワードを広瀬すずにつつかれ豹変する件りや、後半、雨の中のシーンで泣きつくシーンなど、この名演はすごい。

誰だろうと思って調べてみると、小野花梨という、超清楚系女優。これはとんでもなく化ける可能性が高い。子役からやってたそうだ。ポスト黒木華になりうるか。

抜け目ない脇役

脇役も素晴らしく、キムラ緑子さんの完璧加減たるや。もはや台本のセリフとは思えないレベルの話の回し方。

リリー・フランキーさんも適役すぎる。ちょっとゲスい感じが、よくシモネタをかます本人とリンクする。

圧倒的多幸感

『強い気持ち 強い愛』を凌ぐ多幸感ある曲は、探してもなかなかない。そんな曲にふさわしいハッピーなオープニングも、ハッピーなエンディングも、芹香の死というところでプラスマイナスゼロにできているため入り込みやすい。まさに泣き笑い。

この多幸感と現実のバランスを見事に調和させ、見た後もスッキリできる読後感を残すエンターテインメント作品として昇華されていて、監督のバランス感覚が素晴らしいと感じた。

アラサー・アラフォー

この作品を見ていると、30年前がもうこうして映画になってしまうようになったんだなと感じる。まるでアラフォーたちの『三丁目の夕陽』だ。

なので本作は私のど真ん中の世代なので、客観的な判断は当然できない。選曲においても、あんな歌ばっかかけられたら口ずさまずにはいられないわけで。

唯一変だったシーン

気になった箇所は2点。

広瀬すずのブチ切れシーンは必要だっただろうか。

韓国版ではあれが重要だったのか。にしても、なんであんなシーンが必要だったのか疑問だ。

もう一つが、奈々と行くおでん屋。これはなんだ。

いくら当時の女子高生がヤンチャだったとしても、おでん屋で一杯やる女子高生なんか見たことも聞いたこともない。ここだけ妙に浮いてしまったシーンだった。

本作がヒットしなかった一番の要因

この映画は10点評価をつけるつもりだったが、直前で嫌な話を聞いてしまった。

芹香役は当初真木よう子だったいう話。それを聞いてしまったらもうダメ。

この作品の評価は大いに変わるし、見終わった後それを知れた自分はまだいいけど、劇場で見た人はおそらく知ってしまっていただろう。

山本舞香と真木よう子の遺伝子は絶対似てるだろというのは誰が見ても感じていたことだったので、それをスクリーンで見れなかったのは残念でならない。という残尿感が残る。

おそらくこの映画が今ひとつヒットしなかったのはこれが原因だと思う。劇場で見た人は必ず鑑賞後に「芹香役って真木よう子だったらしいよ」という話が出るはず。そうすると、あー、確かに合いそう、そっちでも見たかったなーになってしまう。

そのちょっとした残尿感が、「この映画おもしろいよ!見たほうがいいよ!」と言わしめる原動力をそいでしまった。

それを解決する唯一の方法は山本舞香も切ることだったと思う。ただそれをしてしまうと、いよいよ真木よう子の心象は最悪だ。事務所同士も険悪になるだろう。

知れば知るほどこの映画は真木よう子と山本舞香ありきだったのではないかという気さえしてくる。極端な話、阿部奈美役は篠原涼子と広瀬すずじゃなくても成立はできたと思う。それくらい芹香役が本作のキーなのだ。

本人は出たいという意志だったそうだが、彼女の体調を鑑みて事務所がストップしたようだ。なんの病だったかは定かではないが、こういうので真相がわかることは最後までない。

ただ、真木よう子氏はTwitter炎上や、降板など、ちょっと問題が多く感じる。だからか、昨今少しずつ出なくなってきてる。触らぬなんたらに、ということか。芸能界は信用が命だ。

とにかくこの映画は、真木よう子の降板劇がなければ、またはその事実を知らずに見れれば、必ず楽しめる。そう考えると、本作で見せた板谷由夏の女優魂は凄まじかったといえる。

真木よう子の高校生時代が山本舞香という奇跡の共演は、今後あるかもしれないが、それが本作であれば、この映画は伝説になっていたに違いない。

「SUNNY」評価

★★★★★★★★★☆