2019年に公開された日本映画。監督・脚本は三谷幸喜、主演は中井貴一。
(以下ネタバレあり)
オチにこだわってしまう
三谷幸喜作品は毎回プロットがとても優れているけど、本作も、総理大臣が記憶喪失になる、といういかにも「らしい」プロットであった。
キャストからストーリーからなにも文句はないが、多くの観た人が気になるのは「オチ」。
誰もが頭に描いていたオチは、記憶が戻って、元のむちゃくちゃな総理に戻るという展開。
むしろ「いつ戻るのか」という身構えていてしまっていたように感じる。
その証拠に、斉藤由貴がフライパンで総理を殴るシーン、あそこで会場がざわっとした。
「これ記憶戻るんじゃ…笑」というクスクス声が、あちこちから聞こえてきた。やはりみんなも「いつ戻るのか」という意識で観てしまっていたのだろう。
それを想定してか、三谷幸喜さんは「実はどこかで記憶は戻っていた」ということをあったさり観客に伝える。
あれ?そうなの?いつから?そういう人格の人だったっけこの人…
と思っているのも束の間、息子が入ってきて、あっさり映画は終わる。
期待を裏切るか裏切らないか
そう、この映画、やはりオチを期待してしまう自分はいて、ここが最後まで笑わし切らせてくれなかった、という寂しさが残った。
このオチでいくのであれば、
記憶喪失になると国が良くなる
忖度しないから
しがらみがないから
妙な経験則を度外視するから
という結論に持っていったほうが、支持は得られたのではないか。
天海祐希はどこに出てた?
誰も気づかない。これは。
三谷幸喜さんがやりたかったのは、「天海祐希」という一際目立つ名前をエンドロールに入れておいて、「どこに出てた?」「いやわかんない。記憶にございません」というやり取りを観客にさせたかったんじゃないかと思う。
ネタバレは、三谷幸喜監督本人のLINEブログにある。
スペシャルといえば、もう一人忘れてならないのが、天海祐希さん。物語の冒頭、記憶を失った総理がたまたま入った定食屋。テレビでは、キャスターの近藤ボニータ(有働由美子)が総理のニュースを伝えている。その後、画面手前で総理(中井貴一)が店主(阿南健治)と会話。その時、テレビで流れているのがドラマスペシャル「おんな西郷」の番宣で、そこに映っているのが西郷隆盛に扮装した天海さんなのだ。「おいに任せてくいやい」と台詞まである。
絶対わからない。
このあたりは地上波放送のときのお楽しみにとっておこう。
MVPは宮澤エマ
たまたま胸が大きかった天才、小池栄子の活躍は言わずもがな。
この人はなにをやらせても完璧だけど、女優業においては『八日目の蝉』の小池栄子は半端じゃなかった。
天海祐希さん然り、圧倒的な信頼を置かれる三谷幸喜作品なだけに、キャストはオールスターで、観ていて全く飽きない。
どこまでも贅沢で、なぜかアメリカナイズされた有働由美子もおもしろかった。あれはこれまでやってきたニュース番組とはっきり差別化することで、逆に事務所の了承を得れたのかも知れない。
「なんで?」と思わせるROLLYも意外なハマり方だし、ディーンフジオカのGACKT感も良かった。お互いスケジュールNGの場合は代役できそう。電通の類似タレントに入ってそう。
でもMVPは?と聞かれたら宮澤エマだろう。
この役の作り方はものすごかった。
「絶対見たことある人なんだけど、誰だっけ」と思わせるこの豹変ぶり。
多分、あまりに凄すぎて気づいてない人も多いような気がする。そこまでテレビの露出が多い人じゃないし。
第78代内閣総理大臣、宮澤喜一の孫娘ですよ。すごい演技だった。宮澤エマだけでももう一度観たくなる。ずっとクスクスできる。
オチが全てじゃないけれど
映画はオチが全てではない。でもオチが大事な映画はある。
この作品はオチが大事な映画だったように思う。でも監督はオチを重要視しなかった。
そこの違いはあったものの、楽しい映画ではあった。
「記憶にございません!」評価
★★★★★☆☆☆☆☆