2010年6月12日に公開された日本映画。北野武監督15本目の作品。
R15指定。
(以下ネタバレを含みます)
完璧な導入
この導入の美しさたるや。
よくこんな展開思いつくなと思う。
「北野武さんは、お笑いのプロが映画を撮っているのではなく、映画の天才がお笑いを選んでいただけ」と誰かが言っていたけど、確かにとてもお笑い芸人とは思えない完璧な導入シーン。
ポン引きに騙されたサラリーマンが、金を支払うためにヤクザに同行されながら事務所へ行くと、そこにはもっと怖いヤクザがいた、という、こういう導入が本当にうまい。
キタノブラック
「映像をどこで止めても写真として美しいかどうか」というこだわりがある北野監督らしく、本当にどこで止めても美しい。
本シリーズはどれも映像の重厚感がすごいけど、この初期作がもっともキレイ。
本作はキタノブルーならぬキタノブラックという感じがする。なんかキタサンブラックみたいな響きだけど、黒の深さが本当に美しい。
全く面倒くさくないストーリー描写
とにかく本作は面倒なシーンが何一つなく、流れるようにストーリーが流れていく。
特にあの黒人が出てくるまでの描写は、邦画史上ナンバーワンとも思える鮮やかさだった。
一番好きなシーン
個人的に一番痺れたシーンは、大友(ビートたけし)が村瀬を殺しに行く直前、村瀬の運転手と思われる組員にタバコの火を借りる大友組の若い衆。適当に難癖をつけて揉めさせたところで、サウナに入っていく大友。ここが本当にカッコよかった。
キャストの迫力満点
ビートたけし
ビヨンド、最終章と、たけしさんも70代に向かうためさすがに衰えが見えてくるけど、このときのビートたけしさんのヤクザ演技は、ピークといえる完成形で、迫力十分。
基準がどこにあるのか分からない狂気さがあるのに、子分にはちょっと優しいところもたけし軍団のようで、すごく見やすい。
椎名桔平
椎名桔平さんの髪型がいい。変にオールバックとかではなく、普通の中分けってのが最高。
それなのにムチャクチャ怖い。この配役が特に本作を成功に導いた。
三浦友和
キャスティングで一番良かったのは、やはり三浦友和さんだろう。この人がいるといないとでは大きく違った。
関内に引っ叩かれるところも良かった。
一貫して恐ろしいからこそ生まれる笑い
水野(椎名桔平)といつも揉める刑事、歯医者で襲われた直後の村瀬のカットなど、この映画にはいくつも笑わせにかかるような、意地悪なカットがある。
このあたりが、普通の映画監督ではできないところ。まるで、お葬式でお坊さんが登場と同時にすっ転げるような笑わせ方が意地悪だなと思いながらも、笑ってしまう。
中高生にこそ見せるべき映画
本作はその暴力性からR15指定とされているが、本来は若い人にこそ見せるべき映画だと思う。
この映画は劇場で観たんだけど、その後行ったトイレで、10代の怖そうな兄ちゃんらが入ってきて、そこでの会話が印象的だった。
「お、俺は普通に街でケンカしてるだけでいいや」
と一言。
「だ、だよなあ…」
と友人。
突っ張りの行き着く先は、ヤクザの世界。しかし、本物のヤクザの世界を垣間見てしまった若者は震え上がり、俺不良やめようかな、と思うも、友人の手前そうは言えないので、そこで出た精一杯の突っ張りが「俺は普通に街でケンカしてるだけでいいや」という一言だったのだと思う。
これを見てなお、この世界に行きたいと思う人は、どうあれこうあれ行くだろうし、逆に、暴力、不良、カッコいい、と安易な考えでチンピラをやっている人間には、しっかりとこういう映画を観せて、それでもこの世界に行きますか、と問うたほうがよっぽど抑止になると思う。
「アウトレイジ」評価
★★★★★★★★★★ 神