安藤サクラ主演、新井浩文出演。2014年公開の日本映画。
本作で安藤サクラは第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。
原作は、2012年『周南「絆」映画祭』で「第1回松田優作賞」グランプリに選ばれた足立紳の脚本。
(以下ネタバレを含みます)
日本版「バッファロー66」
安藤サクラ演じる斉藤一子の不器用な恋の物語。
社会的敗者、ブスニートがわずかに人生の希望をもがきながら見出していく。そして、強いようでやっぱりいつの時代も最後は弱い、男のダメさ加減。
そんな本作は、まるで日本版『バッファロー66』のように感じた。
タイトル通りの低予算映画
本作はあまり制作費用がない低予算映画だったようで、ただ、その低予算感がタイトルにもあるような安っぽい恋とバランスが取れていて、決して多くないセリフから、耐えず行間が感じられるのは、監督の技量といえる。
ドラマチックでもない、美男美女でもない人たちの物語が、ものすごい魅力を放っていた。
『バッファロー66』然り、世の映画監督志望の人たちは、こういう映画を撮れたら、と誰もが思うだろうけど、これがなかなかできそうでできないもの。
ピカソの絵やダウンタウンの漫才のように、一見誰でもできそうで、やってみるとまるでできないという。
闇金ウシジマ君感、北野武感
この監督の見事なのは、まず冒頭の数分で、安藤サクラ(斉藤一子)のダメ人間感を、最低限のセリフだけで描いてしまうところ。
だらしない身体で、甥っ子とゲームし、昼まで寝て、妹とケンカして。まるで『闇金ウシジマ君』に出てくる登場人物のよう。
また、妹が妙に美人なのも良くて、だからこそ、結婚はして子どもはいるけど、早くに離婚して実家に戻ってきてる、というところまですぐに理解しやすい。
こういった細部に至るまで配役も完璧だった。
また、優しい母親からお小遣いをもらって、家を飛び出し、住まいと仕事を決め、新井浩文(狩野祐二)に恋をし、デートに連れて行かれるまでも、実に緩やかながら、小気味よく話が流れていく。
このあたりからも、監督の底知れない技量を感じる。他の作品を見たことがないからなんとも言えないけど。
どことなく、北野武監督作品を彷彿とさせるような、面倒くさくなさが終始感じられた。観る人に対して、余計な説明や、妙な親切心を与えない。
「だって、こんなの説明しなくてもわかるでしょ」という、いい意味での上から目線が、見ていてとても気持ちいい。
安藤サクラの凄まじさ
中学生のボクシング経験
本作における安藤サクラの女優魂は、見た人なら誰もが思い知る。
後半、ボクシングが本格的にできるようになっていくところは、実は安藤サクラ自身、中学生のときにボクシング経験があるからなんだけど、それを差し引いても、前半のあのできない感はなかなかリアルだった。
できる人ができない芝居をするとき、まあこれくらいかなとブレーキをかけると思うんだけど、あのできない感は、できる人からすると誇張しすぎに一見感じられる。
でも、運動神経もない普通の女の子がボクシングを始めたら、本当にあんな感じだと思う。あのできない感がとても素晴らしいと思った。
逆に、コンビニで蝶のように舞うあのステップは、中学生時代ちょっとやっていたレベルでは明らかにないので、相当練習したんだと思う。
本当にいる感
安藤サクラ演じるこの斉藤一子みたいな人、本当に街中でたまに見かける。
失礼ながら見つめられたら恐怖さえ感じる雰囲気で、スエットの上下や、でかいデニムとでかいTシャツで、長髪の染残しだらけの汚い茶髪。
「いるよな、こういう人…」とまで思わせるからこそ、怖いもの見たさで、その女の日常を覗き見してるかのような錯覚があり、その女のひたむきな頑張りに心を打たれてしまう。
次第に、あれ、自分のほうがダメ人間なのではないか、自分ももっとやれるのではないかと思わせてしまうのは、そんな斉藤一子の世界を覗き見させてるかのように描くこの作品の力だろう。
言葉少なに人間誰もが抱く感情を見事に表現できる安藤サクラのこの演技力は、『バッファロー66』のヴィンセント・ギャロと重ねずにはいられなかった。
脇役達の凄まじさ
新井浩文
この人もまた、まさに適任といえる役で、イケメン王子の代わりは山程いれど、こういった役の代わりはなかなかいない。
日本映画界において、非常に個性的な役者さんだったけども。。今となっては残念。
斉藤一子が一発ぶん殴ってやったほうがいいんじゃないかと思う。
坂田聡
伝説のコント集団、ジョビジョバ。
やっぱりすごい。
この坂田聡さん演じるコンビニ店員、野間明の存在こそ、本作が持つ圧倒的現実感を醸し出していて、斉藤一子が少しずつ希望を見出すポイントにもなっている。
坂田聡さんは今でも十分売れているけど、もっとバラエティでも活躍できる人だと思う。今後、さらに売れていくに違いない。『アウトレイジ』も素晴らしかった。
根岸季衣
ちょっと存じなかったんですけど、ものすごいキャリアの女優さんのようで。
手癖の悪い、元コンビニ店員の役。言うなれば、夏木マリさん的な存在感を持った役で、とても良かった。
このコンビニに集まってくる変な人たちの物語としても見ていられるほど。
クリープハイプ『108円の恋』
主題歌を歌うクリープハイプもとても良かった。
メランコリックなイントロと、「痛い痛い…」と続く歌詞がとても印象的。
「百円の恋」評価
★★★★★★★★★★ 神