映画「バッファロー66」感想 世界一映像がキレイなコントと世界一美しいラストシーン

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1998年製作のアメリカ映画。

監督・脚本・主演・音楽をヴィンセント・ギャロが全て手掛けた。

マルチタレント

ヴィンセントギャロは、モデルであり、レーサーであり、俳優で映画監督で、ミュージシャンだ。そのマルチタレントっぷりは、世界観は違えど日本でいうとリリーフランキーさんであろうか。


そんな奇才ヴィンセントギャロが、このとき一番やりたかったことが、映画というフォーマットの中にばっちりはまって完璧なタイミングで産み落とされたのが「バッファロー66」だ。

異常なこだわり

こだわりのフィルムで撮られた徹底した映像美と、これ以上ない選曲で彩られた本作は、見ているだけで心を奪われる。

マニアと呼べるほど異常なこだわりを様々な分野で持つギャロの「好き」が一ミリもブレることなくこの映像の中には収められていて、その圧倒的な個性に表現者を目指す誰もが当時は憧れた。

単純かつユニークなストーリー

かといって本作は、決して小難しい芸術作品でもなければ、オラオラギャング系でもないし、平凡なスタイリッシュムービーでもない。

冒頭、悲哀に満ちた儚いラブストーリーでも始まるかと思えば、前半10分程度はギャロ演じるビリーブラウンがおしっこを我慢するだけという。

映像美と話のギャップだけでなく、主人公ビリーブラウンの特異な気質を冒頭で端的に描写しきってしまえているところが鮮やか。セリフもほとんど使わず、作品の世界観と、奇妙な主人公の気質を伝え切ってしまう。

この物語は、ビリーブラウンのちょっと変わった性格がポイントになるため、このシーンは意外に重要。

圧倒的謙虚なドヤ顔

映画は、「これが芸術なんだ、バカにはわからないだろう」と強気に宣ってしまえば、カルト的な評価されてしまう危うさがあるけど、この映画はそんなものでは決してなく、ヴィンセント・ギャロという奇才が好き勝手にやった作品でありながら、見るものを飽きさせまいとするギャロの遊び心と、「俺こんなん好きなんだけど、どう?」という謙虚なドヤ顔が、日本人の心を妙に打つ。

どこか太宰治のような、尾崎豊のような、滑稽な凶暴性を潜めた本作は、日本人にはまるんだと思う。

実験的な撮影手法も、この特異な作品に全てマッチしていて、どれもカッコよく見えてしまう。

登場人物たちが着ている服装からなにから全てがクールに見えてしまう魔法のようで、その魔法の余韻で『GOGO!L.A.』まで楽しめる。

構図の美しさがわかるシーン

「俺は画家でもあるから、構図にはこだわるんだ」とインタビューでも話しているけど、確かにどのシーンもアングルが絵画的。いろんなシーンをポスターにしたいくらい。

顕著なのは、グーンの電話のシーン。なんだか汚い部屋で、汚い格好で、だらしない身体でいつも寝ているだけなのに、それでもカッコよく撮れるところがすごいと感じる。

映像家というより芸術家

しかしこの奇才は、同じことをもう一度やることができず、それはジミ・ヘンドリックスのギターソロのようで、このあとギャロへ映像の仕事を依頼するミュージシャンもいたが、本作のような世界感を創出することは一度も成功していない。

つまり映画監督としてのプロフェッショナルではなく、やはり芸術家であるといいったほうがいいと思う。

このあとの作品、『ブラウンバニー』で彼の映画監督としての才能は出尽くしてしまったかのように思える。

バッファロー66のすごさ

この映画の一番の魅力は、これだけ個性的な作りでありながら、どんな心理状態で見ても楽しめるところにある。

ただ流しておくだけでも、人に薦めるのでも、それがいつの時代であっても楽しめる普遍性があるところ。

簡素なストーリーと、少ない登場人物、穏やかでメランコリックな音楽と、細部に散りばめられた工夫とユーモア。

そしてクリエイターが放つ個性的な魅力がギュッと内包されているため、あまり見る人を選ばない。

それでいて、単館規模と一目で分かるいじらしさがあるため、田舎で見つけたオシャレな喫茶店のような、良いところ見つけちゃった感を与えてくれる。

本作の見どころはやっぱり、レイラ(クリスティーナ・リッチ)に少しずつ心を寄せていくビリーブラウンの心模様にあるけど、この二人の妙なかけ合いが面白い。

基本的にコント

誘拐して立ちションをするまでの掛け合いや、身分証明書の写真を撮るシーンも完全にコントだし。

うまくいったら親友になってやるという謎の報酬を提案するし、「俺を支えろ」と言って背中をさすられたと思えば「触るな」って、なんでやねん。

「もしも昭和の軍人と平成ギャルが一晩デートしたら」みたいなコントが延々続く。

このおもしろいコントを抜群のセンスで撮るからすごい。

世界一美しいラストシーン

しかし、笑わせようという下心が一切見えないから、後半少しずつ愛が芽生えていくところも自然に映る。

この滑稽な2人を、観てる側は勝手に楽しんでいるけど、本人同士は至って真面目なんだなと感じられるから、二人が抱きあうシーンや、レイラのことを想って銃を下げ、コーヒーショップに行き、ハッピーエンドを迎えるところも実に美しい。

あのエンディングは、恋をして浮かれる男の描写を、見事に描ききっていた。

最悪な人生でも、一人の味方がいれば、いることに気付ければ、他のことはどうでも良くなってしまうのだ。

そんな小さな恋の物語、とでもいえばさもありなんだが、この映画はそういった類にさえ分類されない強いオーラで一線を画しているところにいる存在感が、たまらなくカッコいいのだ。

この世界一美しいラストシーンを迎える直前も忘れてはならない。

yesの『Heart Of The Sunrise』は、このシーンのためにあったのではないかと思わせるハマりっぷり。スローで、ストリップ小屋で、オーナーを殺しに行くあのシーンもたまらなくかっこいい。

「あそこにいますよ(ニヤッ)」と指差す女性もめちゃくちゃ良かった。

「バッファロー66」評価

★★★★★★★★★★ 神