1972年8月22日にニューヨークのブルックリン区で実際に起きた銀行強盗事件を元につくられた1975年の映画。
事件を報道したライフ誌の記事を読んで感銘を受けたマーティン・ブレグマンが映画化を決意、フランク・ピアソンが脚本を執筆。
犯人のジョン・ウォトビッツの容姿がアル・パチーノに似ていたため、パチーノが主演に選ばれたという。
ちなみに、こちらがジョン・ウォトビッツ。
うーん、まあ言われてみれば似てるかな…
(以下ネタバレを含みます)
感想(ネタバレ)
ストックホルム症候群
この映画は早い話、「ストックホルム症候群」というやつ。
犯人と人質の間に、妙な親近感というか、情みたいなものが芽生えてくるという。
とは言えこの映画は実話に基づいてるだけあって、ドラマチック展開はない。
ものすごく贅沢な、海外事件の再現VTR的な。
「アティカ!思い出せ!」シーンの謎
ただアル・パチーノは当時から演説風セリフやらせたら天下一品だ。
あの「アティカ!」のシーンなんてまさに。
ちなみにあのシーンは最初意味が分からなかったけど、あれは、事件の1年前、1971年8月22日に起きた、アッティカ刑務所暴動を指しているそうだ。
これは、アッティカ刑務所内であまりに劣悪な扱いに激怒した200人の囚人が暴動を起こし、その鎮圧のために軍隊が突入。
人質10人と囚人29人、死者39人を出してしまったという。
死者はいずれも、政府側のダムダム弾等による銃撃によるもので、このあまりにも残虐な政府の対応が批判されたことがまだ記憶に新しいときで、国民が、警察や国家に不信を抱いていた時期だったというわけだ。
この演出は、助監督がアル・パチーノに「アティカ!と叫んでみれば?」と提案したことで生まれたんだとか。
美しい照明
この映画はリアリティを出すために照明器具を使わず、銀行にある蛍光灯を増やしたり、寄りのシーンで下から少し光を足したり撮影されていて、特にすごいのは夜のシーン。
銀行内の各所にスポットライトをさりげなく置いたりして、絶妙な明るさを作ったという。
外のシーンでは街灯の明かりを1つ強めたり、警察が照らすライトを銀行の白い壁にあてることで群衆を浮かび上がらせたり、暗くても、演者の表情はしっかり伝わってくる。
これが、まさにニュースの中継を見ているかのような臨場感を演出している。
空港のシーンの照明も素晴らしかった。映画とは思えない暗さなんだけどとても自然で、明るい旅立ちを連想させない、どこか不穏な暗さで、映画をすごく引き立ててる。
この映画のメイキングはなかなか見応えがあるし、アル・パチーノのインタビューも入ってるので、オススメ。
この当時のアル・パチーノはなんと35歳
どの映画でもそうだけど、アル・パチーノのあのセリフの力、演技力、存在感は本当に圧倒的。
この映画は75年のアメリカ映画なので、当然アル・パチーノは若いけど、ただこの人はいつ見ても、若いんだか老けてるんだか、よくわからない。
アル・パチーノは1940年生まれだから、この当時で35歳。
もっと若く見える。
ゴッドファーザー兄弟となるサル
銀行強盗の相棒は、サル、はジョン・カザール。アル・パチーノ(マイケル)とジョン・カザール(フレド)。
ゴッドファーザー、コルレオーネ兄弟による銀行強盗として観てもおもしろい。
和やかに観れる銀行強盗映画
いつだって完璧でカッコいいアル・パチーノだけど、この映画ではちょっと間抜けで憎めない犯人役を演じている。なので、実際に起きた事件の映画の鑑賞法としては不謹慎かもしれないけど、どこか和やかに観れてしまう。
ちなみに実際の犯人、ジョン・ウォトビッツもその後、当時はまだ差別が強かったゲイの世界から支持されたりして、凶悪犯罪者、というよりは、やはりどこか支持される部分があったんだろう。
※この映画(事件)はドキュメンタリー化されたり、舞台化までされている
そもそも犯行も、恋人(男性)の性転換手術費用のだったようで、出所後、ジョン・ウォトビッツは映画の収益の一部を供与され、その費用を恋人の手術費用としてプレゼントすることができたんだとか。
「狼たちの午後」評価
★★★★★★★★☆☆