2019年9月13日に公開された日本映画。
太宰治の小説『人間失格』を原作としたものではなく、太宰治と3人の女性との関係における実話を基に描いたフィクション。
(以下ネタバレを含みます)
蜷川実花監督のバランス
監督・蜷川実花の経験と感性がベストなタイミングで昇華された作品だと思う。
『ヘルタースケルター』のような、これまでのいわゆる蜷川実花節炸裂という感じよりも、テーマが昭和ということもあってか落ち着いたトーンでありながら、その中に感じられる蜷川イズムの色彩感覚のバランスがとてもよかった。
通念的すぎず、斬新すぎず。
本作のMVPはこの人
もはや蜷川組常連ともいえる藤原竜也や沢尻エリカの起用も良かったが、本作のMVPは宮沢りえだろう。
全ての太宰治ファンが思うこと。
それが本妻の気持ちである。
そんなファンの「本当にこんな感じだったんだろうな…」という思いを見事に具現化している演技だった。
この本妻役は他にもできそうな人がたくさんいるが、ベストなキャスティングだったのではないだろうか。
もう一人忘れてはいけないのが二階堂ふみだ。
『翔んで埼玉』で埼玉県民を罵倒してた人と同一人物とはとても思えない。
二階堂ふみはカメラの前でバストを顕にし、小栗旬演じる太宰治に強く愛撫されていた。その女優根性だけならまだしも、愛憎にも似た太宰治への愛はまさに山崎富栄のそれを彷彿させる。
どこまで実話?
太宰治の著書を全て読んでいる自分からすれば、どうしても気になるのは「どこまで本当なんだろう」という点。
映画では事実を元にしたフィクションです、と表示される。ということは完全な創作ではもちろんないし、そのことは太宰ファンなら観ていればすぐわかる。
坂口安吾との関係性や、酒宴で道化を演じる件、その渦中に訪れる三島由紀夫とのエピソードなど。
太宰治作品のファンからすると、この映画は「おそらくこんな感じの人間だったんだろう」とぼんやりと描く太宰治のそれにかなり近いと感じた。
編集者・佐倉は実在した人?
一番気になったのは編集者である佐倉だ。この人は実在した人なのだろうか。
いや、当然編集者はいただろうが、こういう名前で、こういう関係性だったのだろうか。
ここに関しては色々調べてみたが、やはり映画のオリジナルキャラクターであることがわかった。
これまでの担当編集者像を一つにした設定のようである。
リアルな太宰治像
太宰治の奥さんや、愛人、同級生、編集者らによる太宰治回想録はたくさん出ているので、人格的なところはこの映画で表されている通りだと思う。
妬みっぽくひがみっぽく、それでいて投げかけられる愛には全て答えるほど人が好きで、誰よりも弱い。
走れメロスから人間失格まで、小説家としても人間としても才気走ってた人だ。
欲しかった芥川賞は取れなかったが、破滅的な生き方をした太宰治は、結果的に日本で一番売れたヒット作家となった。
天国で彼はどう思うだろうか。お前らなんかに俺の芸術が分かるか…とは決して言わず、普通に喜んでそうな気がする。
天国にいるとは限らないが。
「人間失格 太宰治と3人の女たち」評価
★★★★★☆☆☆☆☆