2019年3月30日、31日とテレビ朝日系で2夜連続で、西島秀俊主演で放送された『名探偵・明智小五郎』。
30日・第1夜「SHADOW~警察データベース流出!! 犯罪者連続殺人」(後9:00~11:10)、31日・第2夜「VAMPIRE~巨大病院サイバージャック!!」(後9:00~11:05)。
『トリック』ファンが感じたこと
本作を観た『トリック』ファンなら、誰もがこう感じただろう。
これは、堤幸彦演出であると。
テレビ朝日だし、いや、なによりあの、横断歩道のシーンはなんだ。
完全に生瀬さん演じるカツラの刑事、矢部謙三じゃないか。
作中で頻繁に使用される効果音も、トリックのそれと同じだし。
しかし、本作のクレジットに堤幸彦さんの名はない。
監督は木村ひさしさんだ。
堤幸彦ではなく木村ひさし作
木村ひさしさんは、堤さんの助監督を務め、また、『トリック』でも演出を担当している方だ。
ドラマの監督(演出)は回によって違う人が担当する。
『トリック』の演出の中心人物は堤幸彦さんであったが、木村ひさしさんも担当しており、十二分に堤イズムを継承している人だ。
スピンオフ作『警部補・矢部謙三』も担当している。
木村ひさしさんのすごいのは、これだけアクの強い映像演出を得意としながらも、『民王』『99.9-刑事専門弁護士-』『ATARU』『A Life』など、正統派なドラマを作れるところにある。
本筋ありき?小ネタありき?
本作は『トリック』の流れを汲むおもしろい映像の作りにはなっているが、原作は明智小五郎のため、やはり脚本に目は行く。
感想としては、明智小五郎の名を借りた、明智小五郎感ゼロのストーリー性だ。
脚本は酒井雅秋さんであるが、これは誰がどうという問題でもなく、どういう経緯で、このドラマを作ろうと思ったのかと言うところが気になる。
が、ここまやられると、もうそんなことはどうでもよくなるくらい、本筋がメインなのか小ネタがメインなのか、小ネタをやるための本筋なのか、よくわからなくなるくらい、ドラマファンをひきつける。
ジャッキーチェン
冒頭から、ジャッキーチェンのモノマネ芸人、ジャッキーちゃんが出ていたところから気になっていた。
「なんでジャッキーちゃん?」と。
そして、どことなく彷彿させる香港アクション的格闘シーン。
明智小五郎は事務所でジャッキーチェンが映画内でよく披露するようなトレーニングをしているし、木人拳には笑った。
なんでやねん、と視聴者総ツッコミ。
MOZU
ジャッキーチェンのカンフーアクションを取り入れたのは、木村ひさしさんが最近たまたまジャッキー映画を見て感化されていたからなのかなんなのかわからないが、主演が西島秀俊さんだったからということもあるだろう。
やはり『MOZU』の舟木であるため、その肉体美もさることながら、アクションには定評がある人。
今、日本の俳優でアクションまできっちりできる俳優といえば、西島秀俊さんと小栗旬は外せない。
そして、そんなMOZU感からの、奥さん役に石田ゆり子さんという起用もおもしろい。
チーム・バチスタ
ドラマの流れでいうと、西島秀俊、伊藤淳史となると、ここにチーム・バチスタ感もある。
トリック
そして、作品全体に漂う『トリック』感と、警部補矢部謙三の謎の出演シーンと、黒電話として登場する生瀬勝久さんの起用。
なんともドラマファンを魅了する、小ネタ満載な内容である。
「ドラマ好き以外には用はねえ」といった、知らない人には置いてけぼりを食らわす作りが爽快。
総合エンターテインメント
本作は、明智小五郎の名を借りた、総合エンターテインメント作品である。
おもしろければなんでもいいじゃんという、気持ちのいいノリを感じる。
なのでこの作品は、江戸川乱歩的ミステリーものとして捉えると、がっかりするだろう。なんだこりゃ、と。
「江戸川乱歩を、ドラマ好きのみんなで好きにやっちゃいました」という、実に高度な文化祭ノリとして捉えると、すごくおもしろい。
昭和の文豪、江戸川乱歩の名があるため、最初は少々楽しみ方が不明瞭であるが、だからこその、冒頭のジャッキーちゃんの登場であり、ジャッキーアクションであり、「このドラマは、これまでの明智小五郎作とはまるで違いますんで、そこんとこよろしく」という、意思表明だったのかもしれない。