クイーンの映画『ボヘミアン・ラプソディー』を観た人に、クイーンの裏話や逸話を含めて紹介したい。
(以下ネタバレを含みます)
ライブ・エイドの真実
本物の映像とそっくり
「ラスト21分の衝撃」というウリ文句があったが、この映画のラスト21分のシーンは、1985年に開催されたLIVE AIDの完全再現だ。
これが実際のLIVE AIDの映像。
Queen - Live at LIVE AID 1985/07/13 [Best Version]
映画では数曲カットされていることがわかるが、登場シーンも含め、全体的にかなり忠実に再現されていることがわかる。
LIVE AIDはむちゃくちゃだった
アメリカとイギリスで同時開催されたLIVE AIDだったが、運営は相当むちゃくちゃだったことが伺える。
もちろんこれは、運営が悪かったということではなく、音楽ビジネスが最高潮に達するころ、これだけのドル箱アーティストがノーギャラで、チャリティーで、一堂に会するという前代未聞の試みにつき、むちゃくちゃになることは容易に想像できる。
いくらノーギャラといっても、プロとしてしっかりしたパフォーマンスをしたいのは当然のはずなので、各アーティストの要望は相当細かっただろうし、楽屋のちょっとしたこだわりならまだしも、PA、音響関係のオーダーは相当多かっただろう。
ボブ・ディランの問題シーン
それに伴って、セットリストや順番などで変更を余儀なくされることもあるだろうし、アメリカの方ではマイケル・ジャクソンとスティービー・ワンダーがデュエットで出るとポスターに名前まで出ていたのに、当日二人は連絡がつかず、結局姿を見せなかったし、象徴的なのは、トリで現れたボブ・ディランだ。
Bob Dylan / Keith Richards / Ron Wood - Blowin' In The Wind (Live Aid 1985)
ジャック・ニコルソンに紹介され出てくるディランは、何曲か披露するが、聴いてわかるように、演奏がむちゃくちゃ。
これは、幕の後ろでこのあとの『ウィー・アー・ザ・ワールド』大合唱の準備のため、モニターがなく、自分の演奏や声が聞こえない状態での演奏で、また、後ろから練習している声が聞こえてきたりと、かなり劣悪な環境だったと、後にロン・ウッドが証言している。
さらに、アドリブでディランが『風に吹かれて』をやろうと言い出し、やったはいいがディランのギターの弦が切れて、演奏中にロン・ウッドがギターを取り替えるという珍事まで収められている。
ひどいエンディング
そんな状態で、最後は『ウィー・アー・ザ・ワールド』にいくが、当然めちゃくちゃで、順番を間違えたり、音響関係が良くなかったせいで、マイクの取り合いや、間違った声量や音量で、一流アーティストたちの共演とは思えないステージとなった。
USA For Africa - We Are The World (Live Aid 1985)
おもしろいのは、「この状況に絡むと火傷する」と思ったディランが、ソロパートを回避するために、途中から後ろへ下がってしまう。
イギリスはまだまとも?
一方イギリスの『Do They Know It's Christmas』大合唱はわりとうまくいってるように見える。
Band Aid - Do They Know It's Christmas? (Live Aid 1985)
ここにも、フレディー・マーキュリーが出演しているので、ぜひ見てみてほしい。
クイーンのすごさ
つまり、そんなドタバタであったであろうLIVE AIDで完璧なパフォーマンスを繰り広げたことで、クイーンのすごさが改めて世界中に提示されたのだ。
間違いなく、アーティストにとってやりやすい環境ではなかったとこのステージで、圧巻のLIVEを披露した。
クイーンのベストパフォーマンスと言われるこのLIVE AID1985と、モントリオール1981のLIVEを収録した、実に贅沢な映像作品がブルーレイで発売されている。
映画版での歌声は一般人
劇中のクイーンの歌声は、フレディー・マーキュリー本人の声と、主演のラミ・マレックの声と、もう一人の、ある人物の声がMIXされているものだという。
その人物とは、
1976年生まれのカナダ人で、2011年のQueen公認のトリビュートバンドのメンバーオーディションに登場し話題となった男だ。
My "Somebody To Love" audition
これがオーディションに投稿した動画で、彼が世に出てきたきっかけとなった動画である。
驚異のボヘミアン・ラプソディー
彼がすごいのは、ただのモノマネ芸人の域ではなく、弾き語りで完璧に『ボヘミアン・ラプソディー』を再現できるところにある。
これが驚異的なクオリティーなので、ぜひ見て欲しい。
Bohemian Rhapsody - Marc Martel (one-take)
これはもう、全盛期のフレディー・マーキュリーに迫る歌声であり、それを一発録りで、弾き語りで再現できているところがすごい。
個人的に、劇中で使われているのは、ほとんど彼の声ではないかと思う。
なぜなら、劇中ではその性質上、原曲のリズムと異なるシーンが多く、そうなるとフレディーの声は使いにくいし、ラミ・マレックがフレディークラスの歌声があるとは思えない。
原曲と同じトラックを使う場合はもちろんフレディーの声を使うだろうが、それ以外のシーンは
『スカーフェイス』でアル・パチーノが吸っていた粉の正体をあえて明かしてないのと同様、このあたりも実際のところは明らかにされないだろうが。
フレディーの立ち振舞いの再現度
歌声はともかく、ラミ・マレックによるフレディーの再現度はすごかった。
フレディーは見た目も然り、動きも特徴的であるため、真似しやすいが、だからこそ、「モノマネ感」も出てしまいやすい。それを作品クラスに仕上げるには、魂からコピーする必要がある。
ステージ上での彼は、フレディーが甦ったかのような鬼気迫るものがあり、見ていて爽快であった。
ロンドン五輪で甦ったフレディー
甦った、といえば、ロンドン五輪のセレモニーでフレディーがまさに甦ったシーンも紹介しておきたい。
Queen & Jessie J's London 2012 Performance | Music Monday
映画を見た人にはおわかりのように、例の「レーーーロ、レロ!」と観客とコール・アンド・レスポンスをおこなうシーンをおこなっている。
ギターを弾いているのは、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイだ。
このあとの
クイーンは馬鹿にされてた
クイーンはすぐに売れたわけではなかった。
日本でヒットしたことで火がついたと認識している人も多いが、日本でもバカにされていたのだ。
東郷かおる子
クイーンを日本に持ってきたと言われる、東郷かおる子さんはこのように証言している。
「男性ファンっていうのは、あのギターのフレーズがどうとか、メーカーがどうとか、アンプがどうとか、面倒くさかった」
「イギリスではグラム・ロックの残りカスって酷評されていた。でも日本にはそういう情報は入ってきてないし」
「最初に反応したのは女性ファンだった。でも男性は女性(の音楽認識)を揶揄してるところがあって。女・子どもにロックはわからないだろうっていう」
「でも女性はルックスだけでファンになるわけじゃなくて。音楽、ファッションも大切だし、インタビューしたときの言葉遣いとか、どういう考えで音楽をやっているかとか。そういう関門を乗り越えた末に、本当にファンになる」
そんな日本の女性からの反響が大きかったため、これは日本でも売れると思い、当時音楽雑誌の編集長だった東郷かおる子さんはクイーンを日本に招待するなどし、ブームを作っていった。
同性愛
この映画には同性愛も描かれている。
このあたりの描写がかなりふわっとしているのは、各所に気を使ったからだと思われる。そもそも、フレディーの恋愛関係などはあまりわかっていないことが多いそうである。
ただ、その描写も良かったと思う。あまり忠実にそこを再現する必要もないだろうし、かと言って、避けるように描くのも違和感が残るので、本作での描き方はとても器用だと感じた。
他のメンバーの再現率も高く、ただの史実を謎ったドキュメンタリーでもなくエンターテイメント性も高い。
クイーンを知らない人、知ってる人、どちらでも同じくらい楽しめる内容に仕上げたことが、この映画で一番特筆できる点であるといえる。
「ボヘミアン・ラプソディー」評価
★★★★★★★★★☆