漫画やアニメが実写化すると「イメージと違う」と言われるのはいにしえより語られてること。
もちろんこのドラマも原作ファンからすれば「えーなんで…」と思う点は多々ある。それでもこのドラマには褒めるべき点が相当多い。
(以下ネタバレを含みます)
「今日から俺は!!」視聴率
第1話 9.8%
第2話 8.3%
第3話 8.9%
日曜22時30分という枠を考えると、これはかなり健闘しているほう。大健闘だ。この結果を予測できたドラマファン、いや、業界関係者はいないのではないか。
この結果を受けて、同年代の不良漫画の掘り起こしがされる気がする。おそらく矢面に立つのは『ろくでなしブルース』だろう。
原作ファンのサラリーマンが見てるかと思いきや、これが結構若い人も見ているというから驚く。
「今日から俺は!!」実写キャスト
三橋と伊藤
まず、三橋と伊藤がいい。
ヤンキー漫画界の主人公においてかなり特異なキャラクターである三橋貴志の実写ハードルは相当高い。
それを考慮すれば賀来賢人はかなり健闘してると言っていい。
それから伊藤(伊藤健太郎)もいい。特にケンカのしかたが実に原作の伊藤真司に近くて好感が持てる。あの不器用ながらもドシッと力強い感じが。
それでいうと、三橋のケンカの強さがもう一つ描ききれてないのが残念だが、そこは欲しがりすぎになる。やはり三橋に優先されるのはあのファニーなキャラクター性だから、そちらがしっかりしていれば。
理子と京子
20年来の原作ファンとして一つだけ苦言を呈したい。それは理子と京子だ。
まず赤坂理子(清野菜名)。圧倒的に違う。
原作と近いのはその軽快な身体さばきだけで、キャラクターが全然違う。
俺たちの理子ちんはあんなしっかり者ではない。いや、しっかり者なんだけど、なんというか、柔らかさが全然ない。こんな吉瀬美智子の若い頃みたいなしっかりした感じじゃない。
赤坂理子は不良漫画ヒロイン最強の呼び声もあるかわいいキャラクター。ここはもう少し探せば適任者いたんではないか。
不良漫画の金字塔、湘南爆走族を筆頭に、不良漫画のヒロインは真面目でおとなしい子に設定される。『ろくでなしブルース』の七瀬千秋然り。
赤坂理子は、女芸人のそれとも言える明るいキャラクターであり、美人であり、時折見せる武道家としての強さがある。その強さはひけらかされるものではなく、力強さでもなく、瞬発力と俊敏さから構成される強さであり、とにかく過去前例がないヒロインなのだ。
本ドラマの赤坂理子は、ただただ強そうでしっかり者のキャラクターが際立ってしまっている。確かに原作でも登場時は風紀委員的な真面目さがあったがそれは一瞬で、理子はすぐに三橋化していくため、原作ファンは理子に風紀委員的な印象はほとんど持っていない。
ただでさえ光るキャラクターでありながら、三橋の隣にいるとその輝きをさらに増すような存在なのだ。そのため、どうしてもここだけが残念であった。
もう一人が京子。
ここは橋本環奈という数字を持ってるタレントなので、致し方ないと察するが、ここは面倒くさい原作ファンを代表してしっかり言っておく。全然違う。
俺たちのきょーちゃんはまず圧倒的に怖い。男でも引くくらい怖いのがきょーちゃん。怖さが先に来てないといけない。
早川京子の真骨頂は軽井沢編に他ならない。女リーダーを引っぱたいて締め上げる圧巻のシーンを見ても分かるように、早川京子は本物のスケバン。ただちょっと顔がキレイで、伊藤に弱いだけ。
橋本環奈ではどれだけ尖った芝居をしてもかわいい。かわいいの星から生まれてきたような子だからダメ。
ただ橋本環奈自身、すごい頑張ってることは伝わってくる。一皮も二皮も剥けて捨て身でやってることは好感持てるが、早川京子は伊藤の前で凶暴性を隠してるだけで、あんな変貌したりしない。
で、誰もが思うこと。
この二人、逆じゃないの?
橋本環奈が赤坂理子で、清野菜名が早川京子やれば良かったのではないか。
もっと言えば、京子の子分役の若月佑美(乃木坂46)が京子で良かった。
少なくとも、今ほどの違和感はなかったはず。
当時の時代設定にした良さ
このドラマで一番評価できるのは、時代を当時のままでやったこと。
これを現代版にされてたらさすがのファンも、一話目だけ見て終わりだっただろう。
今後、『特攻の拓』『ろくでなしブルース』あたりがドラマ化される可能性があると思われるが、基本的に日本のヤンキー漫画を現代版にしては絶対にダメ。
『今日から俺は!!』が実写化不可能の理由
基本的に「実写化不可能」と言われるものは、壮大なものやSF原作ものが当てはまる。昨今はCGの技術であらゆるものを映像化できるようになってきた。
しかしそんな現代においても、不良漫画において、一番実写化が難しいのがこの『今日から俺は!!』である。
そもそのこの漫画は、暴走族が出ないので派手なシーンも少なく、不良漫画にしては平凡な日常が多く、性描写やお色気シーンも皆無。それでも圧倒的に面白いのは、西森博之さんが作る天才的なキャラクター描写とギャグ表現。
ストーリーや絵的な派手さでなく、キャラクター性とギャグが魅力の原作を実写化というのは、とても難易度が高いものなのだ。
原作でもシリアスから一転コミカルにすぐ切り変わるので、この映像表現は相当難しいはず。なのでこのドラマでは主題歌やBGMを聞いてもわかるように、最初からコミカルに振り切った作りになっており、そこがうまくいってる要因ではないかと思われる。
それを考慮すれば本作には好評価を下すべきだろう。理子と京子を除けば。
コメディに振り切った良さ
ストーリーの良さや、登場人物のカッコ良さ、泣き所、なんかを盛り込もうと思ってたらおそらく大失敗してたはず。
もしここを入れるなら、まず原作の残虐性を描写しないといけない。
原作では、犬をボール代わりにしてサッカーしたり、縛り付けてバクチクを爆破させたり、残忍なシーンが結構ある。イジメもかなり悪質な描写が多い。
だからこそ勧善懲悪が浮き彫りになり、悪者をぶっ倒す時の爽快感が出るのだか、今のテレビではできないだろうから、無理にやる必要はない。なのでコミカルオンリーでいいと思う。
その象徴として、原作にはないムロツヨシさんが投入されてるんだろう。
よく福本伸行作品が実写化するとき、華がないから強引に女性がキャスティングされるが、このドラマの場合、腰を据えた役者がいないので、ムロツヨシさんを引っ張ってきたのだと思われる。一昔前だとこういうところに竹中直人さんがよく投入されていた。
ただ、赤坂理子の父親は原作にかなり近く、佐藤二朗さんとムロツヨシさんが2人のシーンになるとやりたい放題になるところも原作にはない魅力だ。
原作を点で表現していくストーリー設定もすごくいい。点と線は繋げなくていい。点でいいのだ。
くどいが、理子と京子が惜しかった。ここだけ入れ替えておけば、原作ファンも文句なかったと思う。
ちなみに、漫画原作の実写化が一番成功したのは『ヤミ金ウシジマくん』だと思っているが、ウシジマくんも、見事に演出的なコミカル性を取り入れ成功した。