2001年7月20日に日本公開。
興行収入は300億円を超え、日本歴代興行収入第1位を達成。
この記録は2018年現在も塗り替えられていない。
(以下ネタバレを含みます)
感想(ネタバレ)
忘れていた何かを思い出すスイッチ
宮崎アニメはどの作品にも言えるけど、「なにか忘れてしまったものを思い出させる力」がある。
子供の頃考えていたことだとか、その時の気持ちだとか。
それは宮崎アニメを子どものころ見て育っているからなのか、または子どもの頃の
アニメのクオリティ
本当に細かい所に至るまでこだわって作られているのがわかる。
「動き」がアニメのそれとは違った、生命を感じる動きかた。
今も『君の名は。』など、日本のアニメ文化はどんどん進んでいるけど、
映画「君の名は。」感想 ジブリの首を取りに来る完成度で国内興行歴代4位(ネタバレあり) - 鷺谷政明の神映画レビュー
やはり宮崎アニメが日本に与えてきた影響は大きい。
それから、カメラワーク。どこからどう撮るか(描くか)。これも映画監督には重要なポイントだけど、本当にすごい。
そういう細かい所の気配りが、観やすさの秘訣なんだと思う。
千と千尋の神隠しすごいシーン
千尋が初めて行くボイラー室のちょっと前で、暗い階段を降りるところ。ピョンって。
あそこの動きが本当にいい。
釜ジイにお礼を言う所で頭うったりするところも抜け目ない。千尋は痛がってる様がよく似合う。
宮崎監督は、千尋をよく転ばすけど、あれって見せしめなのかとも思った。俺はこんなにリアルな動きをつくれるんだぞ、っていう。
または、人物の動かしかたについて新たな発見をして、やたら使いたかったのかもしれない。
そんなことを勘ぐってしまうほどよく転ぶし、どのシーンも実に愛くるしい。
また、画面の真ん中に人が歩いているとき、手前の景色を早めに動かし、一番奥の景色がゆっくりと動いていくという、三段スライド方式も相変わらず巧み。
一つだけ足すなら
ストーリーや設定なんかに関して、思うところはいくつかあるけど、もう少し、千尋があの世界(湯屋)に疑問を抱く箇所が前半にあっても良かったと思う。
「この世界はいったいなに?」という。
最初、ハクの言われるがままに従うのはわかる。
とりあえず、ハクの言うことを聞かないと大変な目にあってしまう、ということは直感で、パニくっていてもわかったという風に説明がつくけど、あの世界に少し馴染んで来た時に、リンあたりに、この世界ではどうしていけばいいのか、とか、人間界にはどうやったら戻れるか、っていうのを訪ねるシーンとかがあってもいい。
または、リンの方から、「人間界はどーなの?」って訪ねるシーンでもよかったし。
そうじゃくても、「何であんたはこの世界に来ちゃったの?」でもいい。
つまりもう少し、人間界とあの世界のつながりというか、その辺を直接的に説明しないまでも、お互いの価値観の描写は欲しかった。
みんな、「人間だぁ!」って最初は驚くんだけど、湯婆婆が認めたら、わりとあっさり慣れてっちゃったし。
そういうところをみると、そこまで人間に対して驚くほどの敵対心があったわけでもなさそうだし。
もしそういう解説のシーンをつくるとしたら、ハクの次に会うリン、または釜ジイとの会話のシーンで何かあればよかったんじゃないかと思う。
観てる人も、釜ジイが千尋(人間)に対してどういうリアクションをするかってとこが注目だったと思う。
リンだって、驚いたものの、今上で騒ぎになってんだから、っていう方で驚いてたし。
釜ジイの「わしの孫じゃ」っていうフォローもよくわからんし、なんとなくまぁいいか、となるリンもよくわからない。
この人達は人間をどう思ってるんだろう?ってちょっと思う。
ただ一応、タイトルにも「神隠し」とあるわけで、その辺の扱いはすごく難しい部分ではあると思うけど。
定番のサブキャラ
宮崎監督はちっちゃいキャラとか使うのが相変わらずうまい。
プロデューサーの鈴木さんにすれば、「これはまたグッズで人気でるな」と嬉しいところかもしれない。
あのススワタリ(トトロでも出てきてたな)もかわいいし、何か星みたいなの(コンペイトウ?)を食うってとこもいい。
みんな千尋に手伝ってもらおうとするし。
あのハエドリと坊ネズミとか。あれとススワタリが絡むシーンはみんな受けただろう。
顔なしのポジション
顔なしもいいんだけど、この映画は予告編でやたら顔なしを使う。
顔なしってこの映画を象徴かな?
あの予告を観てると、顔なしと千尋のやりとりがメインなのかと思ってしまうような。
しかし、顔なしなのに、千尋が喜んでくれないと、なぜか悲しそうな顔をしたように見えるのは不思議だ。完全にこの映画にはまっていたということだろう。
登場人物の愛くるしさ
キャラ設定も相変わらず巧み。
基本、宮崎監督の必殺パターンではあるけど、あの湯婆婆だって、どっかで千尋に「40秒で支度しな!」って言ってほしくなってしまうし。
子どもたちへ伝えたいこと
この映画は終始、ペコリと一礼するシーンが多いけど、あれは、宮崎監督が今の子どもたちに礼儀作法を伝えたかったということなのか分からないけど、あれが妙にいい。
銭婆の所に行くときに、変な使いが来るけど、そこでも一同ペコリと。顔なしもペコリ。
成長の過程
冒頭のシーンで、千尋のキャラクターを、ダラっとした少女のように描いてるところを思い出すと、あの湯屋で、その頃とは全く違うしっかりとした少女になっていくのがわかる。
当時の批評家たちは、「この映画は今の若者達への教訓、説教でもある」という見方もあって、やっぱりどこかでそういう啓示はあったのかもしれない。
確かに千尋が叱られるシーンはやたら多い。
最初はどん臭いと言われてたのに、最後の方でリンに「取り消すぞ」と言われている。あの湯屋で、千尋は色んな面で成長した。
しかし現代は、しつける、といった風習はこの映画当時よりさらになくなった。
この現状を宮崎駿監督は今、どう思っているのだろう。
声優のつかいかたがおもしろい
誰が声優をしているかは一切調べずに映画を観ましたが、わかったのは、内藤剛志さんと小野武彦さん。
母親が沢口靖子さんってのは全然わかんなかった。菅原文太さんとかも。
千尋と同じ世界に連れていかれる
最後、トンネル(現実の世界)に戻ってきた時、「あっという間だった」、という気がした。
あ、もう終わるんだっていう。
でも思い返せば色々あったな、みたいな。
つまりは千尋と同じ感情。
観客として、完全にひきこまれてた。
最後のシーンで、トンネルを見つめてた千尋が両親に呼ばれ、戻る時にキラッと光る髪結いの演出は、決まった、という感じがした。
おあとがよろしいようで。
この映画が宮崎映画最高峰か
日本映画歴代一位と考えれば、この映画が宮崎映画最高峰とも言える。
しかし、映画はプロモーションや時期、タイミング、さまざまな要因が重なってヒットするので、必ずしもこれが一番良い作品だと断定付けるのは難しい。
それに、宮崎駿作品は、もう「映画」「アニメ」といったところも飛び越え「宮崎作品」という一つのジャンルでもあるから、興行収入と良さがそのまま直結はしない。
冒頭でも書いたように、子どもの頃から見て育っているし、日本人の中には宮崎アニメというのがもはや血や骨になっている。
「千と千尋の神隠し」評価
★★★★★★★★★☆