ウェイン・ワン監督による、スペイン人作家ハビエル・マリアスの短編小説を映画化したミステリー。
(以下ネタバレを含みます)
感想(ネタバレ)
秀逸な導入
妙なカップルを発見し、そこからしばらく盗撮するかのようなアングルが続く入りだし。
セリフはほとんどなく、ほんの短いカットだけで状況を全て説明できてしまうこの監督の力たるや。
そして冒頭数秒で一気に惹きつける。
とにかく導入が秀逸。
忽那汐里エロさ加減
確かに観客も、プールに行って、ビートたけしさんと忽那汐里のような二人がいたら、「ん…?」としばらく目で追ってしまうと思う。
そしてあんな二人が目に飛び込んでくるのは健二(西島秀俊)も同じのわけで、つまり健二と同じ目線で物語を観ていくから、すごく面白い。
こういう絵的な描写だけで魅せられるっていうのはこの監督の力だと思う。
そしてその盗撮目線の忽那汐里の身体のエロさ。
性的なエロさもあるけど、どこか背徳感のあるエロさ。
でもこのエロさすごく重要な描写で、ここでエロチズムをきちんと表現できていないとその後ずっと追いかけるに値する存在感が出せないから、ここは必要なエロさだった。
インテリバージョンの西島秀俊
また、西島秀俊さんがどこかねちっこく見えるところもすごい。
日本屈指のイケメンであり、MOZUから何から肉体派イメージがある西島秀俊さんが、どこかねちっこいインテリに見えるところも見事だった。
そして、登場人物や場所など、この冒頭のシーンに出てくるものだけで最後までいくミニマム感もいい。
三谷幸喜作品からエンタメ性を排除して芸術性だけを研ぎ澄ましたよう。
ビートたけしさんと西島秀俊さんの起用というのは誰もが思いつきそうだけど、活かし方は完璧だった。
途中チラッと出てくるリリー・フランキーさんは相変わらずずるい。新井浩文もちょい役だけど、一貫して実にセンスのいい起用をしてる。
佐原と美樹の関係は明確にしないとダメ
ただやっぱり話が膨らまなかった。
ビートたけし演ずる佐原と美樹の関係性など、一番重要なところも結局よく分からないまま終わる。
ちょっとしたことでも良かったような気もするけど、なにかできなかったのかな。
妙な性的嗜好があったとか、軟禁状態だったとか、近親相姦とか、なにか事件性をはらんでいて、それを西島秀俊が救出するどころか、小説の題材にするためにずっと覗きだけを続けるとか。そうなるとチープになるのかな。
少なくとも健二の妄想や夢などに行くよりはいいと思う。
これではちょっと、意味が分からない、となってしまう。
いきなり芸術路線に舵を切る下手さ
導入からしばらく健二目線で一緒に進んできたのに、いきなり妄想だか夢だかよくわからない描写されると急激に関心が落ちる。
あ、なんかそういう系なんだこれ、っていう。
アート系?アバンギャルド系?とにかく、そっち系ですか…と落胆する。
物語として興味津々だったのに、突然芸術で突き放されるような。
まあ元々これ小説が原作なわけだけども。
撮る技術はすごい
映像の空気感としては『スイミング・プール』のようで、すごく好きだった。
この監督は、ものすごい優秀なプロデューサーか、脚本家とタッグを組むことでさらに化けると思う。この人が一人でゼロから脚本は書いてはダメだ。
私が大好きな是枝監督も、あんまりゼロから脚本を書いてほしくない。原作ありきのものを撮ってほしい。
このウェイン・ワンという監督は香港の人らしいけど、代表作が「スモーク」「千年の祈り」という作品らしい。ぜひ一度観てみたい。
ロケ地は静岡県 伊豆今井浜 東急ホテル
この映画のロケ地は静岡県河津町の伊豆今井浜 東急ホテル。
9割がここで撮影されたっていうから、このホテルは聖地巡礼として人気のよう。
このホテルも良かったんだろうけど、撮り方もいいから、あまり日本っぽくない印象だった。
ぜひ利用してみたい。大浴場は今井浜温泉で、露天風呂は源泉かけ流し。さらにホテルパティシエによる絶品パンケーキが人気なんだとか。
「女が眠る時」評価
★★★★★★☆☆☆☆